東京雑記

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すべてのお客様が唯一無二の特別なお客様

演劇やコンサート等、パフォーマンスで観ている人に元気や感動を与える、という仕事をしていると、演者と観客の距離感について考えてしまうことがある。

「常連ファン」の存在が継続的な演者の活動を支えていることは間違いない事実である。しかし、演者や運営側が「常連ファン」の言いなりになってしまうと、これは事がおかしくなるのだ。

 

(1)ある落語家の取り組み

これはご本人から聞いた話ではない。お仕事をした際に、関係者がお話をしていた。

今はとても有名な落語家さんの若いころの話。彼にファンがつきはじめて、落語会は満席になるようになった。もっともチケットのとれない落語家のひとりと呼ばれるようになった頃、客席の最前列には、いつもの常連さんばかりがいるということに落語家本人が気づいた。そして、とてもありがたいことなのだが、新しい観客にも観てほしい、とその師匠は思った。それからは試行錯誤を繰り返し、事前に演目を発表し、同じ演目を1か月とかかけるようになっていった。当時は常連の落語ファンの中には、毎回観にきているのだから、違うネタをかけてほしい、と言ってくる方もいたそうだ。

 

このようにその師匠は、常連ファンと距離をとりながら、新しい「ファン」へのアプローチをしていったのだ。今も、その師匠の公演は、大盛況である。

 

(2)素人スポーツ大会で起きたこと

あるサイクリングイベントに参加したときのことだ。そこには5年くらい続けて参加している常連参加者が10人くらいいた。運営側とも仲が良く、アットホームな雰囲気を出していた。その中のひとりが、はじめて参加した運営の方の不手際に、とても怒っていた。運営責任者が慌てて、でてきて、お詫びして、その方をなだめていた。

 

その後、裏側で、不手際をした運営スタッフに責任者が「あの方は、年間20万円以上、参加費を払っているお得意様。丁重にお願いね」ということを伝えていた。

 

その後、このサイクルイベントの運営団体では、おなじお客様同士で差別化するのはおかしい、という話になり、VIP待遇代を別途に払ってもらう取り組みをした。お客様同士の整合性はとれたが、そもそものアットホームな雰囲気は崩れてしまったことと、新参者でも、お金を払えば、VIP待遇ということで、お得意様の気持ちも離れてしまったのだ。翌年からVIP代という考えは廃止し、すべてのお客様に楽しんでいただく、というスタンスに戻った。思考錯誤の最中である。

 

(3)常連客はプロデューサーではない。

「常連ファン」という、この手の話は枚挙にいとまない。常連客はプロデューサーでも、主催者でもないのだ。勿論、興行側は、顧客の声に耳を傾け、マーケティング手法をとりいれて、よりよいサービスやよりよい演目をおこないたいと思う。そのためには、安定顧客となる「常連さん」は大切にしたい、と思う気持ちもわかる。

 

一歩間違えると、常連ファンは次のようなダメ出しをしてくる。

「昨年はこうしてくれたのに、今年はなんでこうなってるの?」

「ここは、こうしないと、ダメよ」

「この演目は楽しくないから、外して」

 

そういうことをお客様に言われないといけないのか?彼らの理屈はこうだ。

「私は毎年来ている、お客様よ。そんなんだったら、もう来ないわ」となるのだ。

さて、困ったものだ。とてもお金も使っていただいているし、影響力もある。改善したほうがよいのだろうか?

 

(4)開催目的を見つめなおす

シンプルに開催目的を見つめなおし、問いを発するとよいと思う。コアファンの人に育てられて、無名から有名になっていくのだし、そういう方が興行を支えていることは事実としてある。企業スポンサーにしても、同様だ。お金を出している。特別扱いをしてほしい。クレジットや招待チケットでメリットを出している。そもそも特別扱いをすることはメリットに書いてない。それでも、特別扱いをされたら、嬉しい。有名人と写真をとれたら、家族や身内にも自慢ができるし、嬉しいだろう。そんな部分で、1,000万円の協賛が決まるなら、可能な対応は喜んで、やるだろう。

 

さて、そもそもの開催目的は何か?

 

多くのお客様に何かを伝えたい。楽しませたい。そういうことが動機ではなかったのではないだろうか。スポンサーや常連客は、そんなお客様のひとりではあるが、その方だけが唯一無二の特別なお客様ではない。

 

すべてのお客様が唯一無二の特別なお客様なのだ。

 

(5)お客様との対話、そして約束

この仕事をしていると、多くのお客様と接する。日本のコンサートなどの場内案内はその日つれてきたアルバイトが席案内をしたりしている。まったく対応できていないことが多々ある。ご愛敬を思うが、お客様に対しては、とても失礼だと思う。そういう運営会社の現場責任者が一番、お客様への理解をしていないので、無知に「常連客」の言い分を主催者やプロデューサーに伝えてくる。クレームを伝えてくるお客様も、こちらが信念をもって話をすれば、理解をしてくれる。バイトに信念を伝えることが無理か、というと、そんなことはない。きちんと開催目的を理解していれば、バイトでもできる。

「お客様に楽しんでいただく空間をつくる」

それを目的に、席案内や問合せに答えれば、どんな問合せがくるか、どうすればスムーズか、見えてくる。

 

(6)お客様への対応

【事例1】

ある現場で、お客様が傘を落とされた。バラシの後、傘はでてきたがボロボロになっていた。お詫びの電話をして、その傘と同等の金額をお支払いした。しかし、その傘は、その方の母の形見ということで、おなじものはない、ということがお電話でわかった。お客様の不注意で落とされて、会場側の落ち度はない。お金をいらない、とお客様は言われたが、私も気持ちがよくない。「あなたに楽しんでいただくことが私の仕事です」

と思うし、できることはしたい。

 

【事例2】

観客席に酔っ払いがいる。「金払っているんだ、俺は」と酔いつぶれている。即刻、裏へ連れていく。理由は簡単だ。「ほかのお客様のご迷惑になる」からだ。その後は、話し合いになる。観るなら、静かにする。無理なら、お帰りいただく。

 

【事例3】

赤ん坊の泣き声。これは運営側のミスに過ぎない。泣かれて困る公演では、3歳未満入場不可にしておけばよい。これはそういうお客様を切るということではなく、それを許可するなら、防音のファミリースペースなり、託児所なりを、作って迎えるべきで、作っていないのなら、多くの方が楽しめるように予め対策をすべきである。

 

(7)お客様対応は、マニュアル化しないで、目的を共有する

お客様対応をマニュアル化している運営会社がある。ほぼ100%の運営会社はマニュアル化している。一定の共通理解する資料として、「運営資料」は必要である。しかし、マニュアル化してしまうと、そもそもの目的が達することができないのである。

 

 

びっくりしたことがある。お客様が階段で転んだ。当然、近寄り、お声かけして、対応する。その横で、平然と別のお客さんの席を誘導している運営スタッフがいた。マニュアルに、「席への案内中、別のお客様が転んだら、即座に対応する」と書いておかないと対応できないのだろうか。このような話はいくらでもある。

 

一流の劇場では、専門の劇場スタッフが手際よく、お客様をご案内するし、気持ちよく幕開きを迎えられる。専門のスタッフでなく、ボランティアスタッフでもなく、アルバイトで当日つれてこられた「マニュアル」を読むスタッフは、お客様へのホスピタリティが足りてない場合が多い。それがいかに公演の評価をさげてしまうのか。

 

すべてのお客様が唯一無二の特別なお客様なのだ。

 

これからも、この事を頭に刻んでおきたい。

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